zer0-san3’s blog

zer0-san3.hatenablog.comの漢字かな混じり墨字文バージョン。

Ω長文SS

昼下がり、お天道様もさんさんと輝く絶好の仕事日和。いつも通り、営業の電話に精を出す。

「こんにちは! いつもお世話になっております、こちら株式会社○○のおめがリオですぅ。」

営業ボイスはお手の物だ。そのまま向こうの担当者に替わってもらい、すんなり打合せ日時を決めて電話を終えた。

「……っし。」

まぁ得意先だからある程度大丈夫っしょと思いつつ、多少気合を入れて取り掛かる。そだ、部長に報告するついでに、別の案件のやつ先に刷っておこっかなー。

今回の案件は、本来なら後輩がやるはずだった。それでも私がやっているのは、—せざるを得ない状況に追い込んだ犯人は置いておいて— 私が「善意」で引き受けたからだ。

印刷機に向かう。紙が足りない。総務部の仕事だけど、これもしょーがない。みーんな忙しいもんねぇ。

好きなことで生きていくために、好きで就いた仕事だ。それなりに業績も積んで慣れてきた。とはいえ、最近は1日1日が何かとハードに感じる。何かを、忘れてしまいそうなくらいに——



「「どもども、おめがってるー!?」」

「おめがレイと、」

「おめがリオでぇす」

「今日はねぇ!」

「なぁにレイちゃん」

「リオちゃんに、ドッキリを仕掛けていきたいと思います!」

「オモイマス☆」

「「いぇいいぇいいぇいいぇいいぇい」」

「……ってレイちゃん、それリオに言っちゃダメなんじゃないの?」

「ちっちっちぃ」

「ちっちっち」

「これからドッキリを仕掛けるのはね、目の前にいる、このリオちゃんじゃなくてぇ、」

「ウン」

「過去の、リオちゃんに、ドッキリを仕掛けていきたいと思います!」

「過去のリオ……?」

「っそう!」

「え、どゆこと? なぁんで? どーやってぇぇぇ」

「実はねー、なんと、すんごいものを作ってきました!」

「すんごいもの!? すんごいものだって、すんごいもの」

「ウ、ウン。それが、こちら! じゃじゃーん! テッテレレッテッテ〜」

「ターケーコープ……」

「違うよ?」

「ねぇレイちゃん」

「うん」

「なぁにこれぇこの電話」

「これはねぇ! その名も『タイムテレフォン』!」

「ダサww 名前ダサww あの、地味だね名前www 地味な名前www」

「うっさいwww 機能はね、ホントにすんごいから!」

「すんごいんだって」

「そう。これねぇ、レイが作ったんだけど、なんと、過去に掛けることが出来る、電話なんだよ」

「過去に掛けることが出来る……?」

「うん。だから、過去のある時間に、存在した電話に、掛けることが、出来るんだよね」

「なぁにそれぇぇぇ! すーごーすーぎーるぅぅぅ!!」

「なので、これを使って、過去のリオちゃんに、電話を掛けてぇ、何分話してもらえるのか、っていうのが、今回のドッキリの内容だね」

「ちょっと待ってレイちゃん」

「どしたどした?」

「リオ電話掛かってきた記憶ない」

「それはねぇ〜、なんかこれ、電話掛けちゃうと、世界線がね、変わってきちゃうみたいなんだよね」

世界線?」

「そう。だから、こっちから電話を掛けたら、その電話を掛けた相手の過去のリオちゃんと、この、目の前にいるリオちゃんは、違う存在になっちゃうみたいな?」

「電話を掛けたら、向こうのリオはリオじゃなくなるってことですか?」

「今の、このリオちゃんとは、別人になっちゃうってことだね」

「なーんてことぉぉぉ」

「ってことで早速ドッキリをしていきたいと思うんだけど、」

「ウン」

「過去のリオちゃんさぁ、何分くらい話してくれると思う?」

「まずさぁ、いつのリオに掛けるの?」

「うーん、やっぱバーチャルYouTuber始めるっていう発想に至る前のリオちゃんがいいからねぇ、2017年の最初くらいかなぁ」

「バリバリに働いてた頃じゃんwww 俺がバリバリに働いてた頃www バリキャリwww」

「お、おうwww そうだね」

「うへへはははは(汚)」

「レイはねー、やっぱあの頃のリオちゃん意外に真面目だから、そんなに取り合ってくれないと思うんだよね」

「ワカルゥ」

「だから、最悪ガチャ切りか、もって2分てとこかな」

「リオはねぇ1時間くらい話せると思う」

「え、すご うそでしょ」

「俺ら通じ合ってっから。俺と、俺は、通じ合う運命なの(?)」

「おん……じゃあ、さっそく掛けてみよっか!」

「掛けてみましょう!」

「会社の番号いくつだっけ?」

「え 会社に掛けんのあんた! うそでしょ!? えっ、ちょっと待っ」



prrrrrrr。

電話が鳴る。ワンコールで出なきゃならないけど、みんな忙しくて余裕がなさそうに見える。

「めんどくせー……」

結局こういうことになるんだなぁ。ぜってー暇なやついんのに。まぁいんだけどさ。

渋々、受話器に手を伸ばした。

「こんにちは! こちら株式会社○○のおめがリオですぅ。」

『ぶはwwwww』

『ねぇちょっと! あん、あんたホントにやったわねぇ!!wwwww』

「は?」

イタズラ電話かな。でも……すんごい聞き覚えがある声だ。なんか片方はレイちゃんにめちゃくちゃそっくりな声。さすがにレイちゃんはこんな電話してこないよね? めっちゃうるさくてよく分かんないけど。

『切って! 早く! もう!!www』

『いいから! 早く、早くやるよ!!wwwww せーのっ』

『『どもども、おめがっ』』

そっと受話器を置いた。やっべぇ、関わっちゃダメなタイプな気がする。

「誰だったんですか?」

「おー、後輩ちゃん。なーんかねぇ、やっべぇ人たちだったぁ。」

「え、マジですかw どんなどんな?」

「電話出た瞬間爆笑してたし、イタズラ電話じゃね?」

「やば。学生ですかね?」

「そうかもしんない。まぁ知らねーけど」

「人事課に番号報告します?」

「んー、……念のため」

「わっかりましたぁ」

そう言って後輩はサッとその場を後にした。たぶん、あの子が席に帰ってくるのは30分以上後かなって思う。ここはそういう職場だから。

それにしても、「212212」なんて番号見たことないかもなぁ。変な番号。



「切られちゃったねー」

「そりゃ切られるわ!」

「あー面白かったぁw」

「いやあんただけでしょ! 私のねぇ、私の会社のねぇ、私に迷惑かけるんじゃないわよ!www」

「「wwwwwwwww」」

「あー、絶対やべーやつじゃんもうこれさぁw」

「でも面白かったでしょ?」

「ゔっwww ハハハハ(汚)」

「www じゃあさ、ちょっとよく分かんなかったから、もっかい掛けてみよっか!」

「やだぁ、あーはぁwww 次は携帯にして携帯! スマホ!」

「えぇスマホかぁ……スマホ…………」

「なぁにぃもう」

「……じゃあ、スマホにしよっか!」

「ウン!」

「次は定時に掛けるね、定時に」

「時間指定出来んの!?」

「一応ねぇ、細かい設定出来るんだよね。世界線が近ければ同じ世界線じゃなくても掛けられるし。」

「ソウナンダ」

「次はちゃんとタイマー設定して掛けるよ!」

「掛けて! 早く! 掛けて!」

「うんw」

「あ、レイちゃん、次は真面目にね。真面目にwww」

「うんwww」



ブ-、ブ-……


モニタに反射した自分の不機嫌そうな顔にびっくりしてたら、スマホが鳴った。誰だろうこんな時間に。レイちゃんかな? いつもL○NEでくれるのに、なんで電話?

まだ仕事が残ってるけど、お手洗いに行くフリをしてオフィスの外に出る。画面を見てぶったまげた。「212212」。さっきのあの2人だ……なんで私の番号知ってるんだろう。

ちょっと怖くなりつつも、画面をスライドさせて電話に出た。なんでだろ、出なきゃダメな気がする。

「もしもし?」

『はい、もしもしー。』

さっきとは打って変わって常識的な喋り方をしているその人は、今度こそ、聞き間違えようもなくレイちゃんだった。

「レイちゃん!? なんで? は? なんで?」

『何度もごめんねぇリオちゃん』

「ホントだよ。なに、なんの用? さっきもイタズラ電話してきたし。切るよ?」

『や、ちょっと待ってちょっと!』

「なに? ちょ、ホントまだ仕事中なんだよね私」

『ごめんちょっとで済むから』

「?」

『はい、リオちゃん』

『おう! 俺はなぁ、俺はしゃべる』

『早くしゃべって』

電話越しに何かやってる。よく聞くと、電話の向こうにいるもう1人は、私の声にそっくりだ。

『もしもーし』

「はい。どちら様でしょうか」

『俺だよ俺。俺おれ。俺はお前でお前は俺』

「…………」

詐欺の電話と何かのセリフをごっちゃにしたような返しに、話す気力もなくなる。

「で、だぁれホントに」

『俺はなぁ、おめがリオ!』

「は?」

『おめがリオや!』

話にならない。一体どこの誰を呼んできたんだろう? 声マネまでさせて。

「あの、マジで暇じゃないの今。切っていいっすか?」

『待ってマジで。俺たちぜってえ通じあえるから。信じてっから』

「意味が分からない」

『辛辛魚さぁこないだ注文したから、届いたら絶対あげるから!』

「え?」

ちょっとだけ、心が揺らいだ。辛辛魚は、私が大好きなラーメンだ。レイちゃんが教えたのかな。

『ちょっとリオちゃん! 叶えれない約束しないの!』

『マジでホントお願い。本当にお願い。10分だけしゃべって。本当にお願い』

ため息が出る。なんなんだこの人は。声を聞けば聞くほど、話せば話すほど、認めたくない確信が頭をよぎる。

この人は、たぶん、私だ。絶対に有り得ない、でもたぶんきっとそう。なんでか知んねーけど。

「……誕生日は?」

『11月の、5!』

「星座は?」

『さそり座』

「好きなアニメ」

『ちょっと前にさぁ、動画で答えたんだよねぇ』

『リオちゃん、向こうのリオちゃんそれ知らないから。教えちゃダメだよ(小声)』

『おけ(小声)』

「動画?」

『そう』

「どゆこと?」

『今ねぇ、んとねー、リオたち未来から掛けてるんだけどー、』

頭を抱える。Uh-huh? miraiから掛けてる? ナニソレぇ? ドラ○もんかな? いやそれ以前に……

「1個だけ言ってい?」

『ウン』

「一人称名前の女マジで無理」

『『wwwwwwwww』』

『そこ!?ww そこなの、ねえ!wwwwww』

「うるっさ……」

何故だか、すごくイライラする。この能天気さ。笑い声。マイペースさ。非常識さ。それからこの、なんか、2人で楽しそうな感じ。なんで。

とにかく、早く終わらせたい。でも、もし本当に未来から掛けてるとして、未来って、どうなってるんだろう?

「ねえ、じゃあさ、2人は未来でなにやってんの?」

『んーとね、いや、それはちょっと教えられないかなぁ。タイムパトロール的なのに捕まっちゃうっていうか』

『もちょもちょしてる。リオは、もちょもちょしてる』

やっぱり嘘かも。てか、レイちゃんのドッキリかなこれ。

「真面目に答えて。ドッキリなんでしょこれ、レイちゃん」

『ドッキリ……うーんドッキリっていうかぁ、』

『レイちゃん信用なさすぎww 信用なwww』

「いや未来から掛けてるとか普通に信用出来ねーから」

『たしかに☆』

「……じゃあさー、今も働いてる? そっち」

『や、今はねぇ、仕事辞めてんだよね』

「は?」

『好きなことやんのに、仕事辞めたの』

ますますよく分かんねぇ。好きで始めた仕事なのに、好きなことをするために辞める?

「ふざけてんの? なんで? マジでなん、は?」

思わずキレた。だって私、こんなに頑張ってるのに。こんなに頑張ってきたのに、辞めるの? 仕事を?

気持ちが言葉にならなくて、一瞬沈黙が流れる。一番最初にその意味が分かったのは、向こう側の私だった。

『がんばったねぇ。ワカルよぉワカルワカル』

たったそれだけ。なんの根拠もないけど、それだけで、なんか、ああ「分かってる」んだってことが分かった。

『楽しいことしよーぜ。ひとりぼっちだと、本当にひとりになっちゃうよ。それでリオだけがひとりぼっちになるわけじゃないでしょ?』

言い聞かせるような言葉に、声が出なくなる。首がもげそうなほどうなずくだけ。

『いいこと言うねぇ』

『だろ? 俺名言のプロだから。名言のプロ』

『キャラじゃねーけどなw』

『ゔっははは(汚)』

『汚っなwww いいこと言ったのにwww せっかくwww』

レイちゃんの楽しそうな声が聞こえる。このレイちゃんは、向こうの私といつも一緒なのかなぁ。最近はいつも朝起きてから、ずっと仕事のことを考えてた。レイちゃんにも、難しい顔してるって言われてたっけ。帰りも遅くなるし、心配掛けてばっかりだなぁ。

楽しいことがしたい。レイちゃんと、久々にゲームがしたいなぁ。


それから、たくさん、たくさん話した。未来では楽しく過ごしていること。友達がたくさん出来たこと。技術が進んだこと。シンギュラリティが起きたこと。憧れの存在が出来たこと。

「そろそろ家帰るわ」

『おう』

『じゃあ電話切ろっか』

「こっちのレイちゃんと話さない?w」

『今回はリオちゃんと話す企画だったからねぇ』

『未来で待ってる』

「パクリじゃんw そっかぁ。じゃあね」

『おう。またな』

『忙しい中電話出てくれてありがと! ちゃんと今日はもう帰るんだよ〜』

「うん。もう帰るね。レイちゃんが待ってるから」

『フフww そっちのレイのこともよろしくね! またね! バイバーイ!』

ツ-、ツ-。

「……ありがとぉ。またね」

真っ暗な画面の向こう側にお礼を言う。反射して映る自分は、電話を掛ける前と違う顔をしていた。まるで別人のような、少し懐かしいような。

「リオ先輩〜!」

人事課に電話番号を報告していた後輩だ。今戻ってきたの?

「先輩、探したんですよ!」

「え、なんで?」

「人事に問い合わせて番号調べてもらったんですけど、『212212』なんて番号ないって!」

「ああ、それならもう解決したよ?」

「えあ!? なんで!?」

「しーっ、声がデッカい声が。みんなしてもう……いーの、それはもういーの」

「?」

不思議そうにしてる後輩の顔をじっと見る。

「じゃあさー、もう時間だし、帰ろっか」

「え、私まだ仕事終わってないですよ! リオ先輩終わったんですか?」

「終わってねぇよ? でも帰るの! あ、あと例の案件だけど、あれ私に投げっぱなしじゃなくて、資料くらいは自分でもやってね。人事課で油売ってる暇あったら出来るっしょ?」

「えっ、そんな、リオ先輩!」

「帰っぞ! 早く!」


「ひとりじゃない、って思えたとーきーからー♪」

帰り道。歌いながら、ほんの少し、顔を上げてみる。

未来。

見上げて手を伸ばした指先に、お天道様が輝いて見えた。明日の朝はもっと、忘れられないくらい、晴れますように。



「ふぅー。なんかさぁ、すんごい長くしゃべっちゃったね!」

「…………」

「リオちゃん? リオちゃーん。おーい」ユサユサ

「アアアアアアアア」

「どうしたの?」

「……んー、なーんかねぇ、忘れてる気がするんだよね」

「なにを? 何かしゃべり足りないことあった?」

「そうじゃなくてさ、なんか……リオもあんな頃あったよなぁ? みたいな」

「それはまぁ、だってあれほぼあの頃のリオちゃんだし」

「……んー。なーんかさぁ、疲れちゃったぁ」

「そっかぁ。でもさぁ、楽しかったね!」

「ね! おんもちろかったぁ☆」

[予想→レイ:2分 リオ:1時間]

[結果→1時間08分]

「いぇいいぇいいぇいいぇい!」

「うーん……いやでもねぇ、最初に掛けたときほぼガチャ切りだったからぁ、やっぱねぇここは引き分けっていうかぁ」

「リオの勝ちぃぃぃ! リオの、勝ちぃぃぃぃ!」

「……」

「通じ合ってっから俺たち。ハハ☆」

「うーん……あんまさぁやるとタイムパトロール的な人に怒られちゃうけど、またやりたいね!」

「ンネッ! またやりたい! 次はレイちゃんに掛けよ!」

「それはやだ」

「え……」

「チャンネル登録と、ツイッターフォローもよろしくね!」

「それではまた次回お会いしましょー!」

「「まったねー!」」

「バイバーイ!」

 

 

「ところでレイちゃん、なぁにその変な番号。どゆ意味?」

「シラネ。言わないよ?」

 

END.

 

※これは一個人の妄想です。