なんだかよく分かんない身体のダルさに見舞われ、ソファにだらりと寝転がる。眠くて、でも寝たくなくて、何故か寂しくなってツイッターを開いた。
スクロールすると、ちょっと酔いそうになる。頭が痛い。画面を閉じて胸の上に置く。伸びをすると少し血流が良くなって、そんで早く強くなった鼓動と呼吸に揺らされるスマホを少し眺めてた。頭痛は酷くなったけど、ドキドキと揺れるそれを見てるとちょっと安心する。このまま、眠れそう。
キィ、とドアが開く音がした。この家には、私の他にもうひとりしかいないはずだ。レイちゃん……お風呂出たのかな。もう何も考えられない。
ヒトの感覚って、けっこう繊細らしい。いやこういうときだからかもしんない。目をつむっててもレイちゃんだって分かる。レイちゃんが、ソファの一段下にそっと座ったみたいだ。私の胸の上のスマホを、指先をそっと置くようにして触ったこともよく分かった。
「何やってんの、レイちゃん。」
胸の上の手をするりと握って、目を開ける。ぎくりと硬直したレイちゃんの顔が視界に入る。
「……死んでんのかと、思って。」
「私が、レイちゃん置いて、死ぬわけないでしょ……。」
「そ、か。」
幽霊でも見たかのような顔をしてたのに、へらっとその表情を緩めて、泣きそうなのか笑いそうなのか、私が握った手を胸元に引き寄せた。
「熱あるんでしょ。」
こういうとこ、妙に鋭い。
「熱なんてないよ。測ってないし。」
「測らなかったら熱ないかなんて分かんないじゃん。ほら。」
レイちゃんがそばの机のペン立てから体温計を取り出してきた。煩わしい気持ちになって、その手を押しのける。
「やぁら。もういいのそんなの。測っちゃったらさぁ、あるかもしれないじゃん。」
「あるかもしれないから測るんでしょ!ほらおでこも熱いし!」
そう言って、レイちゃんは私のおでこに手を当てた。冷え性のレイちゃんの手に体温が吸い取られてくみたいで、気持ちがいい。ぐるぐる考えてた訳の分からない言い訳が引っ込んで、代わりにちょっとだけ泣きそうになった。
「でもさぁ……でもさぁ今日、どっか行くんじゃなかったの?動画用に遊戯王のなんか買いに行くんでしょ。」
ついでに出そうになった弱音をぐっと我慢して、頼み込むような気持ちでレイちゃんの顔を見つめる。
「それはさぁ、わたしひとりでも行けるから。リオちゃんは、今は寝てていいんだよ。昨日いっぱい頑張ったし。」
珍しく、私の仕事を褒めてくれてるみたい。おでこに当てていた手でそのまま私の髪を撫でながら、優しい顔でこっちを見てくる。
「それよりさぁもう風邪なんか引かないでよね。小さいときも熱で生死の境目さまよったことあったじゃん。だから、リオちゃんが体調悪いとわたし——」
最後まで聞く前に、意識が途切れる。いつになく優しいレイちゃんが、お母さんに見えた。
目が覚める。ソファでそのまま寝ちゃってたみたいだ。ブランケットがかけられていて、その温かさからまぁまぁ長い時間ここで寝てたことが分かった。
「あ、リオちゃん起きたー?」
テンションの高いレイちゃんの声が頭に響く。よほど楽しみなのか、撮影準備まで済ませてある。
「ん゙ー……起きたよ。もう動画撮るの?」
「だって今日撮らないと、これ限定版だから!早く早く!」
病み上がり相手に容赦なさすぎ。腕引っ張んないで……。
「それよりさぁ、レイちゃん私が寝る前何か言ってなかった……?」
途中まで聞いてたのは覚えてる。でも何だったんだろ、「リオちゃんが体調悪いと」までしか思い出せない。
レイちゃんは、動画の準備も着替えも済ませてこちらを振り返る。
「んー?さぁなんでしょうね?」
ちょっとだけぶりっ子っぽいイタズラ声に、ツッコむ気力も失せて、その日は大人しく動画を撮ることになった。